○地方公営企業労働関係法の施行について
昭和二七年九月一三日
労発第一六五号
地方公営企業労働関係法(昭和二十七年法律第二百八十九号)は、去る七月三十一日公布され、地方公営企業労働関係法の施行期日を定める政令(昭和二十七年政令第四百十七号)の制定により、同法は、十月一日から施行されることとなり、且つこれに伴い、地方公営企業労働関係法第五条第一項但書に規定する者の範囲の基準に関する政令(昭和二十七年政令第四百十八号)が同日附で施行されることとなつた。
地方公務員中地方公営企業の職員及び単純な労務に雇用される職員の労働関係その他の身分取扱については、従来地方公務員法附則第二十項及び第二十一項において別に法律が制定実施されるまで従前の例によることとされ、暫定的措置として、昭和二十三年政令第二百一号の枠内において労働組合法が適用されてきたのであるが、今回、本法及び地方公営企業法の施行により、今後これらの法律による新しい規律を受けることとなつたわけである。
本法は、地方公務員たる地方公営企業の職員及び単純な労務に雇用される職員の身分取扱に関する面からみれば、地方公務員法の基本原則に対する特例をなすものであるとともに、他方、労働関係に関する面からみれば、労働関係に関する基本法たる労組法、労調法に対する特別法をなすものである。
本法は、地方公共団体の運営上極めて重要な意義をもつものであるので、本法の施行に当つては、先に労働事務次官より発せられた「労働関係調整法等の一部を改正する法律の施行等について」(昭和二十七年八月一日附労働省発労第二五号)にある如く、法の基本精神に立つて特に左記事項を留意の上、実施運営上万全を期せられたい。
記
一 第一条は本法の目的について規定しているが、第四条の規定によつて明らかな如く、本法は、労組法、労調法の特別法であるから、その目的についても、労組法、労調法の目的と併せ読まなければならないわけであつて、本法第一条はその上に立つて特にこの法律が意図する目的を規定したものである。
二 関係者の責務について規定している第二条中「この法律に定める手続に関与する関係者」とは、労働関係の当事者たる地方公共団体の長、企業管理者及びその補助職員並びに職員及び職員の労働組合はもとより、労働委員会及びその委員並びに行政機関たる労働大臣、都道府県知事等広く本法の手続に法律上、事実上関与する者はすべて含まれると解せられるのであつて、これらのものはその各々の立場に立つて、紛争の予防、主張の不一致の調整のために、最大限の努力を尽すべきことが要請されるのである。
三 地方公営企業の定義について、第三条第一項第七号は、同条同項第一号から第六号に掲げるものの外、地方公営企業法(以下「企業法」という。)第二条第二項の規定に基く条例によつて同法第四章の規定、即ち身分取扱に関する規定が適用される企業は、本法において地方公営企業として取り扱うことを規定したものであるが、企業法施行令第一条によると、企業法に規定する地方公営企業以外の企業で、企業法の規定の全部又は一部を適用することができるものは、(一)企業法第二条第一項の表の上欄に掲げる事業(水道事業、軌道事業、自動車運送事業、地方鉄道事業、電気事業及びガス事業)で、その常時雇用される職員の数がそれぞれ同表の下欄に掲げる数に満たないもの、即ち小規模の地方公営企業又は(二)地方競馬事業、自転車競走事業、モーターボート競走事業その他主としてその経費を当該企業の経営に伴う収入(地方債による収入を含む。)をもつて充てるもの、即ち独立採算的性格を経営の原則としている企業の二種類となつている。
また、企業法の規定の一部を適用する場合は、第二章(組織)及び第四章(身分取扱)を除く他の規定を適用することとしている。即ち企業法の全部の規定を適用するか、第一章(総則)、第三章(財務)及び第五章(雑則)の規定を併せて適用するかの何れかであつて、これ以外の組合せで、又は何れかの一章だけを適用する等のことはできないわけである。従つて、右の政令によれば条例によつて企業法の規定の全部が適用される事業のみが本法第三条第一項第七号によつて地方公営企業として取り扱われることとなるわけである。
もつとも、前記(一)の事業は、本法においては既に地方公営企業とされており、第十七条によつて企業法第三十七条乃至第三十九条(身分取扱の規定)が準用されているので、企業法の適用を受けることとなつてもその職員の身分取扱に関しては実体的には変りない。
四 本法の適用をうける職員は、第三条第二項に規定する如く、地方公営企業に勤務する一般職の地方公務員である。非常勤職員たると単純な労務に雇用される職員たるとを問わないが、特別職の地方公務員は含まれない。
五 職員の団結権に関する第五条の規定は、労組法の一般原則に対する重要な特例をなすものである。
(一) 第一項で「職員は、労働組合を結成し、若しくは結成せず、又はこれに加入し、若しくは加入しないことができる。」と規定し、所謂オープン・ショップの原則をとつている。従つてユニオン・ショップやクローズド・ショップを協定することはできないから注意されたい。
(二) 職員中管理又は監督の地位にある者及び機密の事務を取り扱う者の範囲は政令で定める基準に従つて条例で定めることとなつている(第二項)が、これらの者の具体的範囲は、地方公営企業の組織、機構により異るので一律に定めることは困難であるので、政令において各企業を通じての基準を定めることとしたのであるから、これを基本として各地方公共団体ごとに条例で具体的に定めなければならない(十五参照)。
なお、管理又は監督の地位にある者及び機密の事務を取り扱う者は、団結権、団体交渉権を有せず、その身分取扱について全面的に地方公務員法が適用されることとなり、他の職員とその労働関係が著しく異るので、その範囲を定めるに当つては、法並びに政令の趣旨を十分理解して特に慎重を期することが必要である。条例が制定実施されるまでは、これらの非組合員の範囲は具体的には定まらないわけであるから、できる限り速やかに条例を制定実施するよう、準備、手続を進めるよう措置されたい。
(三) 第三項においては、職員でなければ職員の労働組合の組合員又は役員となることができないこととしている。
本法にいう職員以外の者は、職員の労働組合を結成し、又はこれに加入することができないわけであるから、例えば地方公務員であつても本法の適用を受けない一般の地方公務員は、職員の労働組合を結成し、又はこれに加入することができない。たゞこゝにいう職員とは「当該地方公営企業の」職員のみには限定されていないので、いずれかの地方公営企業の職員であればよいと解されるから、一の地方公営企業の職員のみを構成員とする労働組合だけでなく、二以上の地方公営企業の職員を構成員とする労働組合もまた、本法にいう職員の労働組合であることとなり、また、地方公営企業の職員の労働組合の連合団体である労働組合もまた、職員の労働組合である。
六 第六条は、組合の専従職員に関して、地方公営企業は一定数を限り、職員が労働組合の役員として組合事務に専従することを許可することができることとしている。地方公営企業の職員は地方公務員として職務に専念する義務を有するわけであるが、本条はその例外を認めたのである。組合事務に専従することを許されるのは組合の役員に限り、組合の雇用する書記等は含まれない。
七 団体交渉に関しては、第七条において労働組合法に対する重要な例外を規定している。即ち、地方公営企業の管理及び運営に関しては、団体交渉ができないこととしているが、これは、地方公営企業の管理運営は住民の総意によつて信託され、法令によつてその義務、権限を定められた地方公共団体の当局者が責任をもつて行うもので、組合との間の団体交渉によつて決定すべきものでないとする趣旨にでたものである。具体的に或る事項が管理運営に関するものであるかどうかの判定には色々困難な問題もあると思うが、同一事項で管理運営と同時に労働条件にも関するものであるときは、その労働条件に関する面が団体交渉の対象となるものである。
八 条例にてい触する協定に関する第八条、規則その他の規程にてい触する協定に関する第九条及び予算上資金上不可能な支出を内容とする協定に関する第十条の規定は、一般私企業における協約、協定にみられない地方公営企業における協定のもつ特殊性に基く問題であるが、条例に規定される具体的手続は、今後法の実施運営に関する重要問題であるので、この点については別途詳細に通知する予定である。
九 第十二条では、第十一条の規定に違反した行為をした職員に対する取扱を規定しているが、「解雇することができる」とあるのは、当局側にその職員を解雇する権限が生ずるということであつて、現実に解雇するかしないかは、実情に応じ、当局が決定しうるものである。
十 第十三条において、地方公営企業及び職員又は職員の労働組合に対し、苦情処理共同調整会議(苦情処理機関)を設置すべきことを義務づけている。これは日常の作業条件から生ずる職員の不平不満を迅速且つ合理的に解決するための機関であつて、平和的友好的労働関係の確立を図る上に極めて重要な意義をもつものである。法律上は、右機関は地方公営企業を代表する者及び職員を代表する者同数を以つて構成すべきことを規定しているのみで、その権限及び運用の細目は当事者において団体交渉によつて自主的に決定し得ることとなつているのであつて、苦情処理機関の権限、その取り扱う事項等は労働協約等により予かじめ明確にして、実効を挙げるよう特に留意されたい。
十一 労働関係に関する調停及び仲裁については、第十五条第五号及び第十六条第五号により、都道府県知事に調停、仲裁の請求をする権限が定められているが、これは都道府県の経営する地方公営企業についても、その長としてではなく、行政機関の長として行うものであること、請求による調停及び仲裁の開始を認めたのは、地方公営企業における平和的労働関係の確立を図るとともに争議行為を禁止されている職員を保護せんとする趣旨であることを理解の上、その請求については十分に慎重を期せられたい。
十二 企業法では、同法の地方公営企業の職員(管理、監督、機密事務取扱者を除く。)について、地方公務員法に基かない職階制を採用することができること(企業法第三十七条)、給与の種類及び基準は条例で定めること(同第三十八条)、地方公務員法の規定の一部が適用を排除されること(同第三十九条)等を規定しているが、企業法第二条第一項に規定する規模より小さい規模の企業には、同条第二項によつて条例で指定されない限りこれらの規定は適用されない。然し乍ら、労働関係については本法で規模の大小にかかわりなく同一に取り扱われるものであるから、労働関係と表裏一体をなす身分取扱についても、同様に取り扱う必要がある。よつて本法第十七条では本法の地方公営企業であつて企業法の適用を受けない小規模のものの職員についてその取扱を一にするため、これに企業法第三十七条乃至第三十九条を準用することとしている。これと関連して企業法施行令附則第三項では「企業職員の給与の種類及び基準については、昭和二十七年十月一日から起算して六箇月をこえない期間において法第三十八条第三項の規定に基く条例が制定され、且つ、実施されるまでの間は、なお従前の例による」旨の経過措置を規定しているが、企業法の地方公営企業以外の本法上の小規模の地方公営企業の職員の給与の種類及び基準については、新たに条例が制定実施されるまでの間の経過措置については、右の企業法施行令附則第三項の規定の適用はない。然し乍ら従前の職員の給与に関する条例は、企業法及び本法の施行により職員に関してその全体が失効するものではなく、企業法及び本法に矛盾てい触する部分、即ち給与の種類及び基準以外の給与額等を定めた部分に限り、職員に関しては失効するものであつて、従前の給与条例の規定中、種類及び基準に関する部分は、別に条例によつて改められるまでの間はその効力を存続すると解されるものであるから、この点特に留意されたい。
十三 附則第二項において、昭和二十三年政令第二百一号は、職員に適用しない旨を規定しているが、職員とは本法第三条の地方公営企業の職員であること勿論であるが、本法は単純な労務に雇用される一般職の地方公務員にも準用される(附則第四項)から、これらの職にも政令第二百一号は適用されないこととなる。従つて政令第二百一号は特別職に属する地方公務員についてのみ適用されることとなつたものである。
十四 附則第四項において、地方公務員法第五十七条に規定する単純な労務に雇用される一般職の地方公務員(地方公営企業の職員である者を除く。)の労働関係その他身分取扱については、特別の法律が制定施行されるまでの間は本法が準用されることを規定し、附則第八項で地方公務員法附則第二十一項が削除された。従つて単純労務者は、労働組合を結成し、又はこれに加入することができ、地方公共団体の長と団体交渉し、労働協約を締結し得るわけである。単純な労務に雇用される一般職の地方公務員の範囲を定める政令(昭和二十五年政令第二十五号)は地方公務員法附則第二十一項の削除に伴い当然に失効するが、これに代る政令制定の措置は別段講じていないが、単純労務者の範囲は、概ね同政令に規定されていたものの範囲と一致するものと解する。なお、管理、監督の地位にある者及び機密の事務を取り扱う者は、その職種にかかわらず単純な労務に雇用される職員には該当しないものと解する。
この外単純労務者は、本法上地方公営企業の職員と同様に扱われるが、本来、本法は所謂縦割現業たる地方公営企業及びその職員を規律の対象としているのであつて横割現業たる単純労務者は、地方公営企業に相当する企業組織を有しない場合が多い点において性格上稍々異る点があるものであるから、単純労務者に関する本法運用上の問題については、実情を十分考慮の上できる限り弾力性ある取扱をなすこととし、円滑な運営を期することとせられたい。
十五 「地方公営企業労働関係法第五条第一項但書に規定する者の範囲の基準に関する政令」によつて条例を制定するについては、特に左の事項に留意する必要がある。
(一) 第一号中「職制上企業管理者を直接に補佐する職にある者」とは、職制上「次長」等の職がある場合にその者をいうのであつて、企業管理者たる局長に直属する部長、課長等の職にある者をいうのではない。
(二) 「企業管理者の秘書」とは、現実に秘書として機密の事務を取り扱う者をいうのであつて、秘書室勤務の者であつても単なる給仕等を含むものではない。
(三) 「業務の監察を行う者(補助的職員を除く。)」とは、監察事務に関する組織の長及びその他の或る程度の責任的地位にある者をいゝ、専ら指揮命令を承けて調査的事務等のみに従事する補助的職員を含まないものである。
(四) 第二号中局、部、課に「準ずる組織」とは、例えば委員会事務局、企画室等の如きもので、局部課と同格又はこれらに準ずるものをいう。
(五) 「職制上その長を直接に補佐する職にある者」とは、職制上の部次長、課長補佐の如き特別の職にある者をいう。
(六) 「機密、人事、労務、文書若しくは経理担当の係」とあるのは、その事務所全般に関するこれらの事務を行うものであつて、例えば電路課庶務係の如き、一部の部課のみの人事等を行う係は、特別の事情のない限り含まれない(これに類する表現は以下すべて同じ。)。
(七) 「人事若しくは労務担当の係又はこれに準ずる組織の長に直属する組織の長」とは、例えば労務係長の下に、係の直下の組織として班が三つある場合に、その三つの班の班長の職にある者をいう。
(八) 「労働関係に関する事務」とは、対労働組合関係事務というに略々等しく、労働に関係する事務であつても、労働組合、団体交渉等に関する事務以外の、例えば厚生事務、労働統計事務等は含まない。従つて、「労働関係事務担当の職員」とは、たとえば同じ係、班の中で厚生関係と組合連絡関係の事務を行う場合には、その係又は班の中の後者の事務を担当する者のみに限られる。
(九) 「庁舎又は構内の警備に従事する者でその職務の執行に関し職員の取締をするもの」とは、守衛、巡視等であつて職員に対して何等かの取締、監督的な任務を持つ者をいい、守衛、巡視等であつても単に受付、夜警のみを行う者等は含まれない。
(十) 第三号中「附属施設」とは、病院、研究所等の附属組織をいう。
(十一) 「職制上その長を直接に補佐する職にある者」とは、前二号の場合と同じく、営業所次長等の職にある者をいう。
(十二) 第一号乃至第三号に掲げる者は、これに該当する職がない場合、例えば附属施設において労働関係事務を殆んど扱わないために労働関係事務担当職員のない場合等にかかる職を新たに設けることを要求する趣旨でないことは、いうまでもない。
(十三) 第一号乃至第三号は、一応通常の規模における通常の組織を念頭に置いた基準であつて、特別の機構がある場合、規模が著しく大きく、又は著しく小さい場合、その他特別の事情がある場合には、必ずしもこれにより難いことは当然であつて、政令本文但書は、この趣旨によつて、実情に応じた措置をとるべきことを定めたものである。具体的に条例を立案するに当つては、この範囲は固より団体交渉によつて決せられるべきものでないことはいうまでもなく、法及びこの政令の趣旨、精神に準拠してこれを定めることが必要であるが、同時に、できる限り当局側、職員側双方が、法及び政令の趣旨、精神の上に立つて双方の立場から事態を十分に検討し、納得できる線において定められるような措置が望ましい。