東京近代水道125年史
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1.令和5年1月に東京都が示した人口推計によると、都の人口のピークは令和12(2030)年へと修正されている。69(1)施設の老朽化と一斉更新 『東京近代水道百年史』で詳述されているように、東京水道は創設当初から急拡大する水道需要に対応するため、水道施設の整備・拡充に努めてきた。 特に高度経済成長期には、短期間かつ集中的な施設整備を行い、昭和30年代後半から昭和40年代の間に、全体の処理能力の約7割(約460万㎥)に当たる浄水場が整備された。 地方公営企業法施行規則では、浄水場を含む浄水施設の耐用年数は60年とされており、平成30年代には、高度経済成長期に整備された施設が一斉に更新時期を迎えることになる(図3-1)。図3-1 浄水場の更新時期 また、この間原水水質の悪化と水質基準強化への対応など、水質面の状況変化を受け、浄水場は建設当時の施設能力(公称施設能力)を十分に発揮することができず、水道需要の見通しに対して供給能力に余裕がない状況であった。 今後、浄水場の大規模更新工事が始まると、工事期間中の大幅な施設能力低下は避けられず、安定給水の確保と計画的な施設更新の両立が大きな課題となっていた。(2)自然災害と気候変動の脅威 平成23(2011)年の東日本大震災では、被災地での給水確保の重要性が浮き彫りになったほか、地盤液状化や計画停電など、これまでに経験したことのない被害も発生し、耐震対策や電力確保のための更なる取組の必要性が明らかになった。 また、近年は日本各地で大型台風やゲリラ豪雨による浸水被害が深刻化しており、水道施設が冠水し長期にわたる断水を余儀なくされるといった事例も発生している。こうした状況を踏まえ、水道施設の浸水対策強化も喫緊の課題となっていた。 さらに、気候変動による水源量や原水水質への影響も大きな課題の一つである。近年の降雨状況の変化により、利根川流域のダム等から安定的に供給できる水量が当初計画よりも低下していた。今後の気候変動の状況によっては、積雪量の減少と融雪時期の早期化による農業用水需要期の河川流量の減少、無降水日数の増加による厳しい渇水の発生も懸念されている。 そして水質面でも、温暖化の進展により、貯水池や河川水などの水温上昇による水中生物の異常繁殖や局地的な豪雨などの発生による急激な原水水質の悪化がもたらされる可能性があった。(3)人口減少社会の到来 内閣府が平成26(2014)年に示した資料では、今後我が国の人口が減少するとの見通しが示されており、東京都においても、平成25(2013)年11月の人口推計では、平成32(2020)年には都の人口はピークを迎えて減少に転じ、平成72(2060)年にはピーク時の約77%まで減少するとの推計結果が示されていた1(図3-2)。 人口推計の動向は様々な要因に左右されるため正確な予測は難しいが、長期的には人口減少に伴い水道需要が減少する可能性も示されており、こうした変動を踏まえつつ、災害や事故の影響も勘案して施設整備のあり方を考えていく必要があった。図3-2 日本及び東京都の人口の推移

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