東京近代水道125年史
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42第1項 水源開発と管理1 都の水源の抱える課題 第1章で記載したように、東京都の水源開発は、国の策定する「利根川水系及び荒川水系における水資源開発基本計画」(通称「フルプラン」。以下「フルプラン」という。)に基づき、主に国や独立行政法人水資源機構(以下「水資源機構」という。)が事業主体となり、流域各都県と連携しながら進められてきた。 水源開発が長期化する中、東京都は、水源施設等が未完成の状態で取水している不安定水源や、課題を抱える水源に依拠する形で水道需要を賄ってきた。今日でも、昭和30年代の慢性的な渇水時の対策として、水源開発完了までの間、緊急かつ暫定的に許可を得ているものや、1年毎に協定を締結して分水を受け、締結中においても他県の水事情により減量される水源などが82万㎥/日程度存在している。 また、都の主要な水源である利根川・荒川水系では、5年に1回程度発生する規模の渇水に対応することを目標としているが、全国の主要水系では10年に1回を目標とし、諸外国の主要都市では既往最大の渇水などを目標としている。このため、水源開発が完了したとしても、利根川・荒川水系の渇水に対する安全度が低いという問題がある。 さらに、将来、積雪量の大幅な減少や雨の降らない日の増加などの気候変動が進むことにより、河川やダムなどの供給能力が低下するなど渇水のリスクが高まることが懸念されている。2 水源開発の動向 当局はこれまで、水源施設の早期完成を実現するため、様々な機会を利用して国等関係機関に要請を行うとともに、水源地域の生活再建や地域整備の促進、上下流交流事業の充実などに努めてきた。 平成11(1999)年以降に事業が完了したのは、浦山ダム、北千葉導水路、利根中央事業、戸倉ダム(中止)、滝沢ダム、八ッ場ダム及び武蔵水路改築事業の7事業である。 このうち、戸倉ダムについては平成11(1999)年3月から環境影響評価に着手していたが、都をはじめ全ての利水者が事業からの撤退意向を示したことから、平成15(2003)年12月に、国土交通省は事業の中止を決定した。 また、八ッ場ダムは、平成13(2001)年9月の第4次フルプラン及び同ダムに関する基本計画の変更により、工期が平成22(2010)年度までとされていたが、平成20(2008)年9月には、工期が平成27(2015)年度まで延伸され、さらに平成21(2009)年9月には、国土交通大臣が関係1都5県との事前協議なく建設中止を表明する等、当初計画よりも大幅に完成が遅れることとなった。 国はダム事業の再検証を行い、平成23(2011)年12月にダム事業の継続方針を示したが、平成25(2013)11月には工期を平成31(2019)年まで延伸した。そして平成27(2015)年1月に本体工事が始まり、令和2(2020)年3月に完成、同年4月から管理が開始された。 この間、建設に反対する市民団体により、関係各都県に対して負担金支出の差止等を求める住民訴訟が提起された。当局は将来の水源量は将来の水道需要量に対して十分なものとはいえず、八ッ場ダムによる水源確保が必要であると判断したことが合理的である等の主張を行い、これらが認められ、平成27(2015)年9月最高裁判所において原告側の上告棄却により都側全面勝訴が確定した。 八ッ場ダムの完成により、都の水源量は一日当たり680万㎥となった。3 水道水源林の保全(1)水源林の概要と意義 利根川水系とともに都に貴重な原水を供給しているのが多摩川であり、その供給に重要な役割を果たしているのが、多摩川上流域に広がる森林や、小河内貯水池である。 小河内貯水池を含む多摩川上流域には約45,000haの森林が広がっているが、当局ではそのうち約25,000haを水道水源林として保有し、維持管理を行っている。 水源林は、森林に降った雨水を土壌に蓄え、徐々に流出させることで河川流量を安定化させる(水源かん養機能)ほか、土砂流出を防ぐことでダム等の堆砂による機能低下を防ぐ、土壌でのろ過を通じて原水の水質を第2節 安定給水を支える取組~水源・環境・危機管理~

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