野生ヤギの観測数は13頭だけであった。それは2隻の観測船の上空を取材のためのジェット機(3~4機)、ヘリコプター(5機以上)がかなり低空で飛来したために、崖際で休息していたり、採食している野生ヤギがビロウ樹林の中に避難してしまうからである。撮影に成功したのは僅か6頭であった。島の南側で3頭、そして島の北側で3頭であった。写真18は、海岸に転がる大岩上に出現したヤギ2頭である。写真19はビロウ樹林の縁辺で休息していた個体であるがヘリコプターの爆音に驚いて樹林内へと避難した。写真20は標高100m程の崖下斜面で採餌していた。写真21は岩石海岸の水辺近くまで降りていた。野生ヤギの生息場所は、どんな海岸線形状であれ生息が可能なほど適応力が強いと感じた。 特に印象に残ったことは四つあった。一つは、海岸線近くの隆起サンゴ礁上に匍匐性のツル性植物が皆無であったこと。二つは、垂直な崖上部の縁辺部の緩斜面のビロウ林がなくなり芝生状になっていたこと。三つは、垂直な崖下部の緩斜面の草本植物がなくなり芝生状になっていたり、土砂崩れが進行していたこと。四つは、以前のカツオブシ工場跡には多くの日本人が居住していたために畑や住居があった。それらの場所の植生が元に復元していないで芝生状となっていた。また、それらの一部では表面土砂が流出していた。 これらはすべて野生ヤギによる、過度の採食の結果であろう。 野生ヤギによる魚釣島の生物相への影響については、横畑泰志・横田昌嗣 ・太田英利(2012)等が著した「尖閣諸島魚釣島の生物相と野生化ヤギ問題」(home. Hiroshima-u.ac.jp/heiwa/Pub/42/16Yokohata. pdf)に詳細に述べられていて、これまでの問題点が全て網羅されているので、ぜひ参考にされたい。 魚釣島の野生ヤギによる植生破壊の現状については、以下に写真撮影結果から辿ってみることにする。 写真22は、島の北西端近くのカツオブシ工場跡の後背の景観である。開けた場所は以前には、住宅、畑等があった場所である。これら開けた場所は芝生状となっているが、これは野生ヤギによる過度の採食により、出来上がったものである。写真右下には隆起サンゴ礁を掘削した船着き場があるが、ここでの植生は完全に消失している。ハチジョウススキ等が皆無である。 また日本海へと流入した対馬暖流の約60%は、津軽海峡を通過して津軽暖流と名を変えて、東北地方の宮城県沿岸域にまで南下する。海洋学的に見ると日本本土の60~70%以上は、黒潮の恩恵を受けた国として評価できる。すなわち海洋学的に見ても尖閣諸島海域は、日本がこの海域を管理する国として最も相応しいと考える。 海鳥類にとっての尖閣諸島といえば、まず念頭に浮かぶのはアホウドリの繁殖地の復活であろう。南小島や北小島ではアホウドリが増加しつつあるらしい(長谷川 2003)。魚釣島は過去には尖閣諸島中で最大の繁殖地であった。 野生ヤギの駆除が完全に行われ、その影響でのクマネズミの増加対策も成功すれば、将来計画として、魚釣島のアホウドリ繁殖地の復元計画を、今から模索すべきである。 野生化ヤギ問題 -28-
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