東京都尖閣諸島現地調査 調査報告書(抜粋版)
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注目すべきは、カツオドリが小岩の混じった草地斜面に、多くの場合1羽でじっとしている場面が結構散見された(写真11)。この写真11を良く見ると、カツオドリが左隅下端に1羽、右隅の岩の陰に2羽見える。この2羽は親子で雛は約9週目くらいと考えられる。右端の上端にカツオドリ1羽、さらに真ん中上端にカツオドリ1羽が識別できた。さらには、はっきりしないが、真ん中上端のカツオドリの右斜め下に雛と思われる個体がいるように見える。何と合計カツオドリ6羽が認められた。このような個体は背景に溶け込んでいるので望遠レンズで撮影した写真でなければ探し出せなかった。このような単独でじっとしている個体は、まだ育雛中の雛を抱えている個体なのであろう。どうもそのように解釈した方が理屈に合うように感じられるものの詳細は不明である。 アオツラカツオドリは、北小島と同様に飛翔個体は殆ど無く、少数の個体が高所の岩上に休んでいる場合が多かったが、このような小集団は望遠レンズでも撮影できなかった。平地上や緩斜面の草地で一羽でじっとしている個体が結構多かった。飛翔個体は数例しか観察できなかった。本種は崖際で営巣しない種として知られているので(Nelson 1978)、このような個体は営巣場所に残存している個体とも考えられた。写真12は緩斜面の草地、写真13は崖の半ばにあるテラス、そして写真14は海岸に近い草地と岩上等に見出されたアオツラカツオドリである。カツオドリの幼鳥との外部形態の違いは、脚の色がカツオドリでは黄色であるが、アオツラカツオドリでは灰青色である。これはデジタルカメラで撮影すれば容易に識別できた。 オオアジサシは、イソナノ瀬戸では岩礁上で大きな群れが休んでいた(写真15)。南小島では島の内部の高所で集まっているらしく小型船よりは観察できなかった。ただ群れている喧騒が僅かに聞こえてきた。意外に観察数は少なかった。 クロアジサシは、営巣場所を選ばず何処ででも繁殖できるようである。草の生えた平地でもコロニーを作って繁殖できる種である。南小島には隆起サンゴ礁の平地が発達しているので、そこも繁殖場所として利用しているのだろう。調査時にはどちらかというと海に面して高い崖があり、その崖が湾曲していて難破船などがあるとそこに多数集合していた(写真16)。 サギ類は、隆起サンゴ礁の台地が発達しているのでそこが餌場となっているのだろう。ただ休息するのは急峻な崖が利用されているようであった(写真17)。 尖閣諸島の海域は北東進する黒潮本流が流れている。そのために海水温は年間、20~30℃の間で変化するものの、他の沖縄諸島よりも年平均気温は2~3℃高いといわれている。尖閣諸島域を通過した黒潮本流は、大部分は太平洋域を北上して九州、四国、本州の太平洋側を北上して千葉県の銚子沖あたりから東進して北アメリカ大陸沿岸域にまで達する。しかし、尖閣諸島を通過した黒潮本流の一部は、分派流として対馬海峡を通過し、対馬暖流と名を変えて日本海へと流入して、九州、本州、そして北海道の西岸域を北上して宗谷海峡に達する。宗谷海峡を通過すると宗谷暖流と名を変えて北海道の北東沿岸域を流れ下り、北方四島の国後島と択捉島の北岸域に達して消滅する。 -27- 海鳥類にとっての尖閣諸島

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