特に尖閣諸島の南小島や北小島で多く繁殖しているといわれているセグロアジサシ(Sterna fuscata)(高良 1969) は全く出現しなかった。おそらく繁殖後は営巣地を速やかに離れるのではないだろうか。同様にマミジロアジサシ(Sterna anathetus)は僅か4羽観察されただけであった。また、アナドリ(Bulweria bulwerii)、オオミズナギドリ(Calonectris leucomelas)、ウミツバメ科海鳥(Hydrobatidae sp.)は全く観察されなかった。 魚釣島で繁殖する巣穴営巣性のオオミズナギドリやウミツバメ類については繁殖の可能性が極めて強いと考えられるものの現地調査ができない状態にある。それは、野生ヤギだけが原因の土砂流出では考えられない、凹凸のある形状の裸地斜面がビロウ樹林の中に観察されたからである。このような場所ではオオミズナギドリの繁殖の可能性がある。これらの海鳥種は全て夜行性であるので上陸して調査する以外に確認の方法がない。 なお、ウミガメ類が2頭出現した。海面近くに浮上した際の甲羅の形状から、おそらくタイマイであったと考えられた。 明治33(1900)年に魚釣島を調査した黒岩恒氏の「尖閣列島探検記事」によれば、アホウドリ(Phoebastria albatrus)やクロアシアホウドリ(Phoebastria nigripes)が合わせて毎年繁殖のために数万羽が飛来していた。 これらアホウドリ類の繁殖地は2つあった。一つは島の北西端の小渓(こたに)周辺域であるが、ここは植生が回復し現在はビロウ樹の密林となり昔の繁殖地の面影はなかった。もう一つは島の東端の東岬(アガリサキ)である(写真1)。岬頂上の先端部は草が芝生状に刈取られた状態となっている(写真2)。 これは明らかに野生ヤギによる採食の結果である。これだけ眺望が良く、高度もあるのに、海鳥が休んでいないことも不思議である。それに続く岬近くの斜面は、野生ヤギによる過度の採食により、かなりの部分で表層土の流出がみられた(写真3)。 魚釣島は大洋に孤立していてかつ標高が300mに達するので、山頂域は風衝帯であり雲霧帯の発達が顕著である。このように周年を通じて雨風の強い島の岬地帯に草本植物の成育がなければ海鳥類の繁殖は困難である。それは強烈な雨風に営巣中の親鳥が直接晒されるばかりでなく、卵や雛が生存に耐えられないからである。 北小島の周航調査 出現海鳥種と個体数は表2に示した。最も多数観察されたのはオオアジサシで、以下カツオドリ、クロアジサシ、アオツラカツオドリの順であった。この島の地質は隆起サンゴ礁と礫質砂岩から成り立つが、南西部と東部の一 部には礫質砂岩の海崖が発達している。 カツオドリは海に面した海崖の頂上付近には必ず小群で休んでいた(写真4、写真5)。幼鳥が混ざる場合も小数例であるが見られた。この島では大型で目立つ海鳥種なので発見は容易であるが、隆起サンゴ礁の海岸線より離れた平地や、礫質砂岩の草が芝生状に生えた緩斜面に一羽でじっとしている個体が疎らに観測された。このような個体を探し出すには時間がないので、望遠レンズで撮影した写真から判断せざるを得なかった。このような個体はアオツラカツオドリでも良く見られたが、営巣期間が長期にわたるためなのか理由は分からないので、今後調査する必要があるだろう。 -24-
元のページ ../index.html#28