わたり休息場あるいは採食場として利用されてきたのであろう。 野生ヤギの植生の破壊を見てみると法則性がある様に感じる。垂直にそそり立つ断崖の上縁部から上部に発達している緩斜面が必ずといって良いほど、採食により裸地化している。写真25はその典型的な例である。この崖上部縁に発達する緩斜面は全て野生ヤギによる過度の採食を受けていて芝生状となっていた。皮肉なことに、崖が垂直に近くヤギが採食できない植物は緑青々として樹勢が良いように感じる。この崖上部のさらに連続する右側の状況を写真26と写真27に示した。芝生状の植生が失われ土砂の流出が始まっているのが判る。 写真28は、過去にアホウドリが繁殖していた東岬に隣接する崖地である。崖上部の縁辺域は、野生ヤギによる採食が進み芝生状草地が崩壊して土砂崩れが進行している。崖の縁まで生い茂っていたビロウ樹林は後退している。このような場合、崖の下部も野生ヤギの採食場所や移動経路となっているようである。このことは写真20からも明らかである。 写真29は、隆起サンゴ礁海岸である。匍匐性のツル植物やハチジョウススキ等が消失しているのが判る。 写真30は、沢水の流れ。野生ヤギの水飲み場となっているらしく、周囲は芝生状に草が刈取られている。 野生ヤギによる魚釣島の植物に対するヤギ食害は新納(2006)により紹介されている。その他にも多数の報告があるがここでは触れない。近年、野生ヤギは生態系エンジニアとしてその排除とその後の対策が検討されている(常田・滝口 2011)。 面積の狭い島嶼では、その島の生物生産は基礎生産を担う植物が基本となっている。その植物から食物連鎖網を通じて高次動物へと続く。その基礎生産の大部分を担う植物を収奪する野生ヤギの存在は、食物連鎖構造を貧弱なものとしてしまう。結果は、生物の多様性の喪失となり、結果としてその島の生態系を破壊してしまうことに繋がる。 動物の一例として、魚釣島にはセンカクモグラ(Mogera uchidai)という固有種が知られている。このモグラは地上生活型あるいは半地下生活型といわれている。それは、魚釣島は腐食土壌の発達が貧弱なため、地上での索餌が必要であるとモグラ研究者により指摘されている。野生ヤギは、地表に豊富に生えている草本類ばかりでなく樹木まで採食するため、地表を裸地化し土砂流失を促進させ、腐食土壌層の一層の貧弱化が進むためにセンカクモグラの生息域の崩壊が心配されている。 植物では、分類的な種の多様性の喪失に伴う遺伝的多様性の喪失が心配されている。 ただ不思議なのは、野生ヤギの食性として、「ヤギは他の家畜化された反芻獣に比べて、気候条件に対する適応幅が広く、乾燥に強い代謝機能を持っている。また質の悪い植物を採食し消化する生理的な能力と、潅木や枝の多い木にも登り、棘のある植物も採食できる優れた採食行動を持ち合わせている(Silanikove 1997,2000)」と常田・滝口(2011)は紹介して― 46 -
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